奥多摩奥秩父アックス登攀部隊

通称「たまちち」の活動記録

火打石谷『まぼろしの大滝』登攀


2023年8月27日撮影 『まぼろしの大滝』 60m

 

ぼろしの大滝とは?

 

 山梨県北都留郡丹波山村に位置する前飛竜を源頭とし、南面より流れ出る小常木谷の最大支流・火打石谷の上流域(標高1100m付近)に存在する。

 

 この場所だけ忽然と開けた視界は、まるで『まぼろしの大滝』を照らし出すように陽の光がさんさんと降り注いでおり、どこか恍惚としたその佇まいは枝沢でありながら本流の大滝に負けじ劣らない程の存在感と落差を誇る、誠に見事な滝である。

 

活動記録&メンバー

 

活動日:2023年8月27日(日)  天候:晴れ  気温:32℃くらい

 

参加メンバー:ゴリーダー、マチャアキ

 

登攀データ

 

まぼろしの大滝』 60m

 

たぶんFA:マチャアキ & ゴリーダー(登攀記録が皆無なため、たぶん初登でいいですか?)

 

ロープスケール:60m

 

ピッチ数:1ピッチ

 

使用登攀具:ハーケン×9、ハンマー、ヌンチャク、スリング、たわし、60mロープ

 

※60mダブルロープ推奨、カム類はセット不可(セットしてもプロテクションとしての役割をなさない)、ラープ等は使用できる可能性あり。

 

プロローグ 『まぼろしの大滝』登攀に至るまで

 

 2023年6月初旬、夏の沢登りシーズンに入る前にゴリーダーからマチャアキに一通のメールが届いた。

 

「今年の夏、『まぼろしの大滝』登攀しない?火打石谷の…」

 

この一言が、マチャアキのどこか心の片隅に残っていた古傷を開いたとでも言うべきか、懐かしい雪辱をささやかに呼び起こした。

 

 奥多摩秩父アックス登攀部隊に加入する前のマチャアキは、2020年8月に火打石谷を単独遡行時、『まぼろしの大滝』の単独登攀に挑んでいたが、左岸側壁から滝の中間部(水流に乗る付近)で、プロテクションの取れなさと単独登攀のリスクの精神的重圧に敗れ、左岸側壁に残置されていた腐ったハーケンとカラビナで懸垂下降し敗北を期している。

 

※参考リンク:隠名渓 火打石谷(溯行・ソロ) / #Zakiさんの雲取山・鷹ノ巣山・七ツ石山の活動データ | YAMAP / ヤマップ

 

2020年8月20日 火打石谷・単独遡行 『まぼろしの大滝』敗退時の写真

 

 全くの同時期、既に奥多摩秩父アックス登攀部隊を発足させ活動していたゴリーダーは、『まぼろしの大滝』の冬期登攀の可能性を探るために、単独での調査(無雪期・冬期)を繰り返していた。しかし『まぼろしの大滝』は南面側の谷かつ西面を向いており、陽当たりあってか冬でもその氷結は厳しく、仮に気象条件が重なったとしても、氷河期でも訪れない限り冬期登攀の可能性は絶望的であると確信していた。『まぼろしの大滝』を登るなら無雪期に他ならないとの結論に至っていた。

 

ゴリーダーは、まだ巡り会っていないマチャアキと同時期に火打石谷の単独調査を繰り返していた。

 

 

 

              2020年1月1日 冬季の『まぼろしの大滝』 撮影者:ゴリーダー 
こ、こりゃあ駄目だ…。ほぼ、ドライツーリングじゃね?
この風貌から、今回の作戦をゴリーダーは【Project:Dirty phantom(汚れた亡霊)】と名付けた。

 

 

 

 マチャアキは以前、奥多摩秩父アックス登攀部隊加入後に雑談で、火打石谷の単独遡行・『まぼろしの大滝』登攀敗北の話をゴリーダーにした事があった。 

 

ゴリーダーは、その話を覚えていたのだろうか…

 

火打石谷まぼろしの大滝』への自らの想いと、マチャアキの過去の雪辱・リベンジへの想いを回収するために、一通のメールにその情熱を込めたのである。 

 

 偶然とは時に、不可解な奇跡を起こす。いや、それを必然とでも言うのだろうか?

 

そんな二人を引き寄せた縁(えにし)は、今ここで、まさに点と点が線となり『まぼろしの大滝』登攀へと至ったのである。

 

事前調査&工作

 

 2023年8月24日(木)、ゴリーダーとマチャアキは『まぼろしの大滝』の実体を知るために事前調査に入った。

 

 そもそも『まぼろしの大滝』は登攀記録があるのか?

 

ネット上を探しても登攀記録は存在せず、かといってこの地域の山岳会やこの流域の沢に詳しい知見者などもおらず、正確な情報は無に等しかった…。ならば、この目で現地を確かめる他ない。

 

事前のミッションは『まぼろしの大滝』を高巻き、その全貌を丸裸にする作戦だ。

 

 ① 落ち口の調査&終了点の設置

 

 ② 懸垂下降し『まぼろしの大滝』自体を調査&残置ハーケン等がないか確認

 

 ③トップロープで試登

 

 ④ 状況を見てNPが無理そうならば、危険な所にハーケンをプリセット

 

③④に関しては『沢登り』のスタイルとしては些か物議を醸す点があると思われるが、登攀に主眼をおいた安全を考慮しての苦肉の策でもあった。

 

懸垂下降で『まぼろしの大滝』を調査中のゴリーダー

 

 調査の結果、落ち口付近に残置物等の痕跡は無し、滝の上部にも残置物等は無し、滝の下部左岸側・側壁に残置ハーケン&カラビナ、下部ハング帯・右側の数m手前に腐ったハーケン&カラビナが確認できたのみで、おそらく『まぼろしの大滝』は登攀はなされていないと思われた。

 

※もし、火打石谷まぼろしの大滝』登攀に関して、古人の完登記録をご存じのお方はお知らせいただければ幸いです。

 

後日の登攀のために、右岸側の確りとした立ち木に、スリングとカラビナで終了点を作成。一旦、懸垂下降し、水線上や水流際の岩・ヌメリ状況の確認しつつ滝の下へ。再度、トップロープで落ち口まで試登し、ホールドやムーブを確認。また、NPのセットが可能かどうかも探ったが…

 

皆無であった。

 

上部・下部ともNPのマイクロカムが全く効かず、ハーケンも打てる場所が限られていた。ハーケンを打てたとしても、信じられるハーケンは数本のみ。

 

「こりゃあ悪い…」

 

正直な感想である。

 

打てたハーケンも下部の核心部・ハング帯までにハーケン×4本、上部は落ち口と上部の約30mの間で1本のみ。超絶ランナウト、中途半端な半プリセット工作となった。

 

(まぁぶっちゃけ、下部の核心部までプリセットできただけ儲けもんである。全くプリセットができなければ、『まぼろしの大滝』登攀は、正に『幻』のままに終わっていたのだから…)

 

後は、リード中におおかた目星を付けたハーケンを打てそうな場所に”精神安定剤”として打ち込むという作戦で、事前調査&工作は終了した。

 

火打石谷・煙窪の決戦 ~いざ、出陣!~

 

 令和5年8月27日(日)、晩夏を思わす肌に纏わる早朝の涼しい空気は、これから始まる決戦に向けて脈打つ鼓動と滾る血液のほとぼりを絶妙に覚ますかの如く、妙に頭の中をすっきりとさせてくれたのであった。

 

って、釣りしとるやんけボケ。趣旨は登攀やろ?

 

入渓してから『まぼろしの大滝』までは普通に遡行となるため、その間ずっと気を張っていると登攀前に疲弊しまうとの事で、これが彼なりのコンディションの整え方とか何とか…

 

しかも、普通に釣っとるやんけ。

 

 

22㎝くらいのヤマメ。我々のアジトである食亭「悦楽園」の親父さんにもらった毛鉤で釣れた!

 

決戦の地である『まぼろしの大滝』60m           令和5年8月27日(日)撮影

 

入渓してから約3時間で、決戦の地である『まぼろしの大滝』に到着。前日に雨が降ったのか、水量が少し増している。しかし、登攀にそこまでの影響は無いと判断し開戦の狼煙を揚げた。

 

現代風の狼煙(ドローン)を揚げ開戦の意を伝えるゴリーダー。にしても、良いヘリポートっすね。

 

 ゴリーダーがドローンによる開戦の狼煙を揚げている間、マチャアキは登攀準備にかかった。

 

「段取り八分、仕事二分」「準備8割」という言葉がよく使われるが正にその通りで、事前調査&半プリ工作&トップロープ試登の甲斐あり、気持ちには大分余裕があった。後は、この日の環境要因や状況変化に怖気づかず、与えられた任務を事務的かつ効率的にただただこなすのみである。しかし、そこには鋼のメンタルと柔軟な精神コントロールが必要不可欠である。

 

マチャアキは、今までの様々なアルパイン経験や危機的状況下を頭で思い起こし、反芻させ、今現在の状況下と天秤にかける。そう言った「危険度の優劣」たるものを算出し、危険の回避・軽減方法をイメージしたらしい(全集中?)。

 

「まぁ、行けるっしょ。」

 

それが、結論だった。

 

それに、ゴリーダーの支えがあるため心配ないとの判断だったとの事である。

 

開戦! ~climb on~

 

左岸側の水線からが登攀ライン。因みに、この辺が1ピン目。

 

 いよいよ戦闘が始まった。気持ちの上では、歴史上の名のある合戦や闘いと相違ないくらいの名勝負であると勝手に心の中で思っていた。←バカ

 

 下部は左岸側の水線のラインでハング下まで直上、ヌメリは少ない。ハング下は右側へトラバースとなるが、その手前にプリセットした1つ目のハーケンがあるので一息つける。

 

※ここまでは、何もプロテクションは無い(取り付きから5~6mはランナウト)ので、このハーケンに到着するまでにフォールしたらたら、たぶん10m位は岩を転がる事になるので絶対に避けたい場所である。

 

水流を浴びながらハング帯をトラバース、小ハングから右上する。この辺に2ピン目がある。

 

プリセットハーケンに、ロープ流れの干渉を軽減させるためアルパイン・ヌンチャクでクリップし、第一ハング帯のトラバースを開始。ここは、流れ落ちる水流をモロにくらうので、それに動じない体幹とメンタルが必要である。事前調査によりホールドとムーブは頭の中に刻まれているので、多少のヌメリはあるが冷静に処理し問題なく通過。

 

ハイステップかつ悪めのホールド&ヌメリで一番神経をつかうセクション。

 

第一ハング帯の中間より右側のリスにプリセットしたハーケンがあり、安定したフットホールドがあるため、ここでまた一息つける。ここから、少しハングが緩んだ弱点を右上するが、何せここのムーブが悪い…そしてヌメリもあるため、ある意味ここが第一の核心部である。

 

はじめの核心部の第一ハング帯を越え少し右上すると、すぐさま次の核心部・第二ハング帯が現れる。ここにはプリセットしたハーケンが2本あるが、ぶっちゃけ2本とも信じられない。フォールしたら

 

「確実にハーケンが飛ぶな…」

 

程度の信頼度で油断はできない。この辺の(核心部の第一・第二ハング帯)岩質は、おそらくチャートであり、脆いわ滑るわでこの滝の悪質さを助長させる要因となっていることは間違いない。

 

※このセクションは、事前調査でカムが入るクラックが多少あることを確認していたが、セットして少し荷重をかけたら見事に岩ごと吹き飛び、NPを断念せざるおえない一撃・決定打になったのである。

 

第二の核心部・第二ハング帯。ホールドはガバだが、岩が動くためスピーディーかつ安定した処理が必要。

 

第二の核心部・第二ハング帯は、右側から入り高い位置にあるガバを利用し態勢を一歩上げ、左上しながら更に高い位置にあるガバを掴み、水流にあるフットホールドへ体を浮かせて乗り移る。ここは、ガバを完全に信頼し、迅速に処理する他ない。フットホールドに乗ってしまえば体幹は安定するので、その後は、水流内のスローパーとヌメリのない外傾したフットホールドを使って、水流をトラバースし一気に切り抜ける。

 

水流内の一手を信じてトラバース。この先に、プリセットしたハーケンがある。

 

トラバース後、右岸側には安定したテラスのような場所があるが、水流と水飛沫を常時浴びるためそう長居はしたくはない場所。ここが、だいたい滝の中間あたりで、残りの約30mは右岸側・水流沿いに舵を取りながら登攀していく。

 

右岸側・水線沿いを攻めながら落ち口へ向けて上昇。この辺に、最後のプリセットしたハーケンがある。

 

ここから先は核心たる部分は無く、冷静に処理してゆけば然程難しくはない登攀が続く。ただ、依然として有効なプロテクションは取れず、上部の約30m間で取れたプロテクションはプリセットしたハーケン1本と右岸側・リスにハーケンを1本打てた程度、10m以上のランナウト状態(ほぼフリーソロ状態?)で落ち口まで登りった。

 

しかし、ここまでスムーズに登攀できたのもゴリーダーが下から発する

 

「ガンバ!」

 

空気を切り裂き響き渡る、力強い心からの声援があっての事。

 

その声援が自らのポテンシャルを引き出し、プレッシャーを跳ね除け、上昇気流を伴いながら『まぼろしの大滝』落ち口まで突き進ませてくれたのである。

 

ありがとう…ゴリーダー。

 

見事、完登!

 

終了点の上には、完登の証として『たまちち・ステッカー』を掲げてきた。

 

 終了点にて、無線でゴリーダーに”完登”の報告を伝えフォローのゴリーダーを迎え入れた。

 

ゴリーダーは、下部のラインを異なるラインで登攀したそうだが、やはりここも悪かったらしい…

 

(デカい岩がボロッと崩れたとか…)

 

しばらくして、ゴリーダーが登り終え落ち口まで上がってきたが

 

「お前…良くこんなん行ったなぁぁ!?」

 

「スゲェーわ!」

 

と言いながら笑っていた。

 

普段、こんな褒め言葉を言わないゴリーダーであったが、その言葉をもらって改めて『まぼろしの大滝』完登の実感が湧いてきた。

 

ここで、因縁と言う言葉を使うのは些か違うような気もするが、頭の片隅に存在していた二年前の敗退の記憶が、夏の青空と滞りなく流れ続ける水流に洗い流され、綺麗さっぱり浄化された様だった。

 

 その後は、懸垂下降でハーケンを回収しながら取り付きまで。その様子を先に降下したゴリーダーがドローンで撮影。滝の様子を動画で見せられないのが、残念であるが参考なれば幸いである。

 

※因みに、次なる登攀者のために核心部にと上部に数本のハーケン、終了点は残置してあります。是非とも、挑戦してみてください。

 

 

 

 

 

「溜飲が下る。」

 

こちらの方が適切な表現かもしれない。

 

経緯は違えど、同じ滝に、同じ想いを抱く者同士の飽くなき挑戦は、『勝利(完登)』という形で見事に終了を迎え、清々しい心模様で下山したのであった。

 

エピローグ

 

下山後は、やはり美味しい飯だ!ゴリーダーお勧めの『味里(みさと)』にて、ささやかな?祝杯。

 

 身体的には大して動いていないはずなのだが、死闘を繰り広げた後はメンタルのHPの消耗が激しいらしく、お互いにいつも以上の空腹を感じていた。そんな時は「美味しい物をいっぱい食べる!」これに限る。

 

ゴリーダーは「鮭のハラス定食」

 

マチャアキは「旨辛豚の定食」で、ご飯はデカ盛り(メニュー表には無い大盛りの上が存在していた)

 

ここは、定食にこの店で名物のから揚げがデフォルトで付いてくるのが、実に嬉しい。

 

客の心と胃袋を掴みなすわな…これは。

 

二人とも、味にも量にも満足して帰ったとさ!

 

 

 

冒険は続く…

 

【アイスクライミング】氷谷本流走破作戦「ランナウェイⅡ」

今日こそ本流へ

前回の氷谷上流走破作戦「ランナウェイ」ではF2の先の二俣で支流(右俣)に浮気してしまったので、今日こそは本流(左俣)の完全遡行を試みる。

さらに上流に抜け、稜線を歩いて帰るアルパイン的なプランだ。

その名も「ランナウェイⅡ」

今日もヘッドライトを撲滅するべく、ヘッドライト入山である。

帰りは稜線歩きとなるため、大洞川渡渉のための長靴はいつもの場所にデポすると回収できないので、大洞川を渡った後で対岸に放り投げた。

今シーズン幾度と歩いた和名倉沢のアプローチ道もこれが歩き納め。

なんだか感慨深いなぁなどと話していたら普通に道を間違えた。油断大敵である。

氷谷本流遡行

そうこうしているうちに山葵滝に到着。

相変わらず命懸けの高巻きをし、F2の基部に降り立つ。

前回は初めてということでロープを出したF2を、今日はフリーで登り、二俣へ。

さて、ここから未知の本流遡行開始である。

まずはⅣ程度のF3(10m)をフリーで登る。

その上の同じくⅣ程度のF4もフリーで突破。

という感じで、10mくらいのⅣ級が連続する。

{時々フィギュア4も繰り出す}

ロープを出すタイミングを図っていると源頭に到着した。ここまで山葵滝から1時間半。

{ロープを出すことなく源頭部へ到達}

地形図を見ながら稜線へ詰め上げるのだが、やたら道が悪い。

{というか、道などない}

ようやく稜線に出ると12時を回っていた。あとは下るだけ。

{ビクトリーロード・・・だよね?}

下降もなかなかマクレー

顕著な地形の通りに歩を進め、ピークを二つ越えると雪も無くなったのでアイゼンを脱ぐ。

途中の分岐尾根で右に進路を取り、手戸沢に合流することにしたが、合流箇所が急峻で2回の懸垂で沢に降り立つ。

その後も1度の懸垂を交えて大洞川に合流した。

{イケてない手戸沢降下}

{ロープは必須}

あとは吊り橋を渡って登るだけ~と思いきや、ここからが意外に長く、結局渡渉で対岸に渡り、斜面を登り、駐車場に戻った。

さよなら和名倉沢2023

ということで無事に和名倉沢、と氷谷をコンプリートし、今シーズンを締めくくることが出来た。

特に氷谷右俣は情報の全くない未踏の領域であり、「たまちち」の本質的な活動となった。

それにしても、あんなに待ち焦がれたたまちちの冬が、本当に一瞬で終わってしまった。

氷谷上流遡行作戦を「ランナウェイ」と名付けたが、俺たちのこの冬が「ランナウェイ」だったなぁ。

そう思う程に駆け抜けた1シーズンだった。

さて、少し休んで、また走りだそうかな。

{大量のナンで疲れを癒すのである}

【ミックスクライミング】大谷沢ミックスエリアday4 マーメイド

最期を看取ろう

今シーズンは本当に暖かい日が多く、それと重なるようによく雨が降る。

1/22から開拓を始めた大谷沢ミックスエリアだが、2/17で登るべきラインを決めたものの、そのラインに対して事前準備はゼロ。

そしてその週末の雨予報から今シーズンは登れずに終わるかもしれない。

雨が降るとされていた2/18~19は「Dragon Dive」決行のため飛竜山付近に滞在していたのだが、特に18日は予報以上の土砂降りであった。

{飛竜山直下での活動中の様子 ずぶ濡れである}

秩父は全滅だろうな・・・。」

飛竜山からの下山中、雨上がりの青空を見上げながらぼんやりと考えていた。

秩父の氷はしぶとい

2/22はマチャと予定を合わせていたが、ホラノ貝窪大滝の登攀を終え、今シーズンに予定していた氷瀑は全て登り終えたこと、さらに雨で標高の低い場所の氷瀑は崩壊している可能性が高いことから、他に行くところもないので、氷が落ちてしまっているならせめてその最期を看取りに行こうと大谷沢ミックスエリアに向かうことにした。

ちなみにマチャはこの流域は初となる。

アプローチも随分洗練され、駐車場から2時間弱で到着。

歩くのが遅い俺を後目に、マチャはゴゼの滝の様子も見てきてくれた。

{ゴゼの滝 しっかり凍っている}

あれ、氷残ってるじゃん。これはミックスも残ってそうだ。

思いもよらない光景に足取りも軽くなる。

ミックスエリアに到着すると、案の定、氷は残っていた。

むしろちょっと成長すら見える。

さすが秩父・・・恐るべし。

ツララを繋ぐ

さっそくマチャにラインを説明し、共有を図る。

フィックスロープを使い落ち口まで登り、ロープを切り替えて振られ止めのプロテクションを取りながらローワーダウンで降りる。

カルマの時もそうだったが、トラバースルートではこれが一番大変な作業だ。

カム、トライカム、ショートスクリューで無事にトップロープを張り、長々とビレイしてくれたマチャから試登開始。

マチャはホールドを見つけるのが上手くなっていて、難なくクリア。

続く俺もクリア。

相談した結果、ナチュラルではなくボルトを打つことに決めた。

ボルトの位置は下で相談したが、打ちながら下で見上げるマチャに声を掛け、調整しながら打つ。

やはり一人よりも二人の方が圧倒的に効率がいい。

もう一人いれば撮影も出来るのに…などと思いながら2時間掛からずしてボルトを打ち終わった。

ということで長らく待たせたマチャからRPトライ開始。

一度試登しただけあり、問題なくクリア。

続く俺はロープのスタックに苦しめられながらも無事にクリア。

なんだかわからないけど、とりあえずカッコいい写真が撮れるのはミックスクライミングの大きな魅力である。

途中、マチャはアンダーなんかも使っていたが、俺はこれを使わずで、人それぞれムーブや使うホールドが違うのが面白いところだなぁなどと思ったり。

ということで奥秩父に新たなミックスルートが生まれた。

その名も「マーメイド」

エリアの右から左へ、ツララの海を泳いでいくミックスクライミングらしいラインだ。

さて、今シーズンもわずかとなった。

予定ではあと二本のミックスクライミングをする予定だが、それぞれトライ出来る日数は一日ずつ。

限られたチャンスをものに出来るか。ここからはそういう闘いになる。

ホラノ貝大滝アイスクライミング~プロジェクト・ドラゴンダイブ最終章~

秩父でアイスクライミング

 

これまでのあらすじ

 

奥秩父大洞川井戸沢椹谷ホラノ貝窪〜プロジェクト・ドラゴンダイブ〜」をまだ読んでいない方は是非読んでほしい。

 

この企画は、飛龍山の北面にあるホラノ貝大滝が冬季に凍ったらアイスクライミングできそうだな、という不確かな推測と自信から生まれたものである。これまでの冬期登攀記録はなく、そもそも冬期の滝の状態に関する情報もなく、本当に凍っているのかどうかさえ怪しい状況であった。

 

そんな好奇心と行動力だけが取り柄の我々の行動記録である。

 

参加者

 

ゴリラ(リーダー)、マチャアキ、隊長、デクノ(記)

 

今回の獲物(目的)

 

今回我々が登攀目標としているホラノ貝大滝は、山梨百名山として有名な飛龍山(別名大洞山、標高2069m)の北面にあることから、プロジェクト・ドラゴンダイブ命名し、チーム発足当初から企画していたものである。

 

誰も存在を確認したことがない氷瀑と言うのは、実にロマンがあり、滝という字面からもドラゴンを連想したことは言うまでもない。(中二病)

 

そのため、今回はアイスクライミングの難易度云々という物差しでこの登攀の価値を決めるつもりはない。その姿を確認することに意義があると感じていた。そして、あわよくばアイスクライミングしたい。果たしてどうなるのか。

 

山行記録

 

日付

 

2023年2月18日〜19日

 

アプローチ〜ビバークポイントへ

 

 

事前調査では、日帰り登攀は非常に厳しいと判断し、山中ビバークし、2日かけて登攀する計画に決まった。

 

1日目は天候晴れ。昼過ぎに集まり、2人ずつのグループに分かれて奥多摩へ車を走らせた。ゴリーダー&デクノ組は、途中で忘れ物に気付き、2時間遅れでの入山開始となった。日没後、ヘッデンを付けながら歩き、ビバークポイントに到着した。ビバーク用のテント1式は、チーム随一のクレイジーボーイ・マチャアキが背負ってくれた。そんなマチャアキの若き日の淡い性体験を肴にその夜は大いに盛り上がった。

 

暗闇と雨と寒さ

 

 

約3時間の睡眠時間を確保していたが、デクノは寒くてあまり眠れなかった。凍えるような寒さの深夜1時に起床。暗闇の中、準備してすぐに行動開始。

 

序盤は登山道ではあるが、約800m程の標高を一気に上がる。重い装備と急登で息が上がる。身体障害者であるゴリーダーも必死で歩みを進めている。まるで縦走登山しているみたいだ。道中では危険な崩落地帯があり、マチャアキが先行して、古びた補助用のワイヤーを補修してくれたり、地味なサポートに助けられた。

 

途中から天候が悪化し、雨に近い雪も降り出した。いや、もうこれは雨だろう。ただでさえ寒いのに身体が濡れてしまい、最悪だ。あれ、目から水が…。いやいや、辛くても泣いている場合じゃないぞ。

 

 

下降ポイント〜椹谷へ

 

 

ようやく稜線に着いて、一息入れる。少し遅れてゴリーダーも到着し、下降ポイントへ。

 

ここからは踏み跡もないバリエーションルートとなるが、以前調査に来た甲斐あって、迷わずに降りて行ける。足場は非常に悪いが、ロープを出すほどの危険箇所はなく、沢沿いに着く頃には空もすっかり明るくなってきた。

 

沢沿いは雪が深く、水も流れており、この時はまだ滝が凍っているかどうか確証もなく、ダメかも知れないと思いはじめていた。コンディション的には、さすがに厳しいか。

 

滝の落口まで来て、ようやく氷結が確認できた。上部は奥秩父らしいグズグズのクソ氷ではあるが、とりあえず全容を確認するために懸垂下降で降りてみた。

 

 

氷瀑とのご対面

 

 

ようやく姿を現した大滝は、見事に氷結していた。これなら登攀できそうだ。

 

しかし氷瀑の登攀開始ポイントにたどり着くためには、滝つぼに落ちずに向こう岸でたどり着く必要がある。

 

先日、ゴリーダーが釜に落ちたシーンが皆の脳裏によぎる。なるほど、ここでもう一度ダイブ。そう、ドラゴンダイブだ。しょうもない伏線回収を期待するかと思いきや、先導したゴリーダーは慎重にへつり、釜に落ちることなく向こう岸へ渡り切った。

 

(ここで釜に落ちたら凄まじいリスク)

 

エンジョイ!アイスクライミング

 

 

大滝は傾斜はそれほどキツイわけではなく、60mロープで2P程のスケール。ゴリーダー&隊長ペアが先に登攀。続いてマチャアキ&デクノの順に登攀した。

 

難易度的には初心者向けと言っても良いレベルではあるが、一応奥秩父らしいクソ氷ではあり、人が踏み入れることのない領域のため、格別の美しさを堪能できた。

 

ここまで雨の中、ずぶ濡れになっており、ひたすら寒かったが、無事に登攀できた喜びを全員で分かち合った。

 

 

帰還までの長旅

 

昼前には登攀が終わり、帰りはもちろん来た道を引き返す。急登の登り返しが非常に疲れた。登り切った頃には、空も泣き止んでいて、やっと山が笑顔になってくれたような気がした。

 

ビバークポイントに戻ってからテントや寝具を急いで片付けて、夜逃げするかのような大荷物で山を下った。帰りの林道は、自転車を活用したので、かなりスムーズに下山できた。文明の力、最高。

 

終わりに

 

半分ノリで始まったような今回のプロジェクトであったが、実際に氷瀑を見つけて登ることができたことは我々にとって大きな成果となった。

 

そして数ヶ月後、飛龍山にハイキングに訪れたデクノ。やっぱり晴れた山が一番いいね。

 

END

 

 

大谷沢ミックスエリア開拓day3

昨日に続き、今日もこちら。

今日は特に予定行動も決めず、day1で予定したボルトを打ったらラインを考えようかなーなんて呑気にスタート。

まずはユマールで上へ。

ロープが凍り付いているので、制動器具はいつ滑ってもおかしくない。

適宜、墜落防止の結び目(セーブポイント)を作り慎重に上がる。

で、カムで支点を取り、ちょっと壁の中に入ると・・・

ぶら下がる氷柱を一筆書きのように繋ぐラインが見える。

あ、このラインいいかも。

当初予定していたラインではないが、上からだと断然こっちの方に惹かれるなぁ。

だがこちらに色々工作するには準備が足りなさ過ぎる。

とりあえず予定していたボルトを打って今日は終わり。

この週末は気温が上がったり雨予報だったりで、せっかくここまで成長した氷も落ちてしまうかもしれない。

次にここに来られるのは来週の水曜日である。

あーここまでやって、今シーズンは終わりかもなー。

でもまあそういうのもアイスクライミングだな。

運を天に任せよう。

大谷沢ミックスエリア開拓day2

今シーズンに狙っていた氷瀑は概ね終わったので残りの時間はミックス開拓に費やすことにした。

ということで今日はこちら。

{氷は復活している}

アプローチは、前回は再確認の意味を込めてゴゼの滝から回り込んだが、今回はゴゼの滝の一本手前の涸沢をダイレクトに遡行することにした。

悪路ではあるが、これが一番素直かなー。

{ちょっと登ると見えてくる}

さて、今日の予定行動は「①上部に回り込む」「②フィックスを張る」「③ボルトを打つ」の3つ。

①、②はマストで、③はどこまでやれるか~という感じ。

到着後、さっそく上部に回り込む。

上部に水流は無く、源頭の様相であり、すり鉢状になっていて、周囲の水分が岩壁に集まるような地形である。

う~ん、なるほど。

それなりに斜度があるため、ロープを出して落ち口まで到着。

その後、懸垂で取り付きまで戻る。

ここまでで結構精神力を消耗した。

あとはフィックスを頼りにボルトを打つだけ~と思いきや、前回のグラウンドフォールがなんとなく頭に残っていて、セルフを取っているのに大胆な行動が出来ない。

気合で1本目のボルトを打つが、なんか疲れたので次回に持ち越すことにした。

ああこんなペースで間に合うのかしら・・・。

つづく

【アイスクライミング】船小屋窪沢大滝

ヘッドライト下山撲滅の会

和名倉沢大滝登攀から一日空いた2/7、夜明けを待たずにヘッドライトでアプローチを開始。

この日から活動を開始(?)した「ヘッドライト下山撲滅の会」は、今シーズンあまりにもヘッドライト下山が多く、精神的にも体力的にも疲れてきたので発足したものだ。

ヘッドライト下山を撲滅するためにヘッドライト入山するという一見本末転倒なプランだが、事故が起こりやすい下山時に余計なリスクを増やさないという点では理に叶っているように思う。

{5時前に入山 寒い}

さて、この日のメンバーは俺とマチャだ。

2/5に氷結を確認するも時間切れで撤退した船小屋窪沢大滝の登攀がメインだが、イケるなら和名倉沢大滝から継続させようというのが本日のプラン。

もっとも2/5の氷結も甘く、2/6も気温が高かったので、大滝が登れる状態を維持していればの話だが、果たして・・・。

和名倉沢大滝(再)

マチャとは和名倉沢偵察、山葵滝、ランナウェイ、そして今回で4回目となる。

アプローチは慣れたものだ。

林業以外で1シーズンでこんなにもこの道を歩いた人間がいたのだろうか・・・。

道中はただ黙々と歩き続け、通らず下で一回釜ポチャしつつ、約3時間で和名倉沢大滝へ到着。

{背後の穴が釜ポチャの跡である}

大滝は前回より確実に崩れている。

が、時間も状態も、登るには十分だろうと判断。

俺は前回既に登っているので、和名倉沢大滝のリードはマチャに任せることにする。

1P マチャ

前回は左岸側を登ったが、今日は右岸側を攻める。

難しさは左岸側と大差ないが、プロテクションは右岸側の方が取りにくいように感じた。

前回と同じ地点でピッチを切る。

{なんかちょっとテクニカルな感じ}

2P マチャ

こちらでも前回隊長が登ったラインとは異なるラインを進むマチャ。

こうしてそれぞれ見えるラインが違うところは非常に面白い。

上部の氷結は確実に悪くなっていたが、危なげなくトップアウト。さすが。

フォローしつつ、「よくこんなの行ったなぁ・・・」と感心するのだった。

上部ではリスにハーケン2枚、ベルグラにショートスクリューでしっかりステーションを構築し、俺を迎えてくれた。

冬の沢は冷たい

事件はここで起こる。

前回隊長がポチャった釜は相変わらずの様相で、しかしイヤらしくも淵に氷(?)が残っている。

要するにヘツれそうだ。

マチャは「とりあえず行ってみまーす」なんつってヘツりを開始し、見事渡ってしまった。

じゃあ俺もヘツるしかないんだけど、嫌な予感しかない。

半分を越えた先でホールドが無くなり、「いやー悪いねー」なんてカメラを構えるマチャと談笑しながらあと一歩のところで、

足場崩壊

釜は普通に釜で(なんだそりゃ)、立ち泳ぎしないと普通に頭まで沈む深さである。

思ったより流れがあり、というよりは背後がすぐに大滝なので吸い込まれるような感覚があり、「冷たい」と思うよりは「流されたら死ぬ」という気持ちの方が強かった。

なんとか手足を突っ張り這い上がろうとするも、またしても足場崩壊。

{もう笑うしかない}

なんとか這い上がって、ふとギアラックを見ると、あれ、アックス1本ねーじゃん。

{衝撃の瞬間}

まさかのツールロストかよ・・・などと浸っている暇はない。

早速二人で釜を確認するが、それらしきものは見えない。

そもそも足のつかない釜の中だ。底深くまで沈んでいたら絶望的である。

それでも探さないわけにはいかず、ロープで中吊りになりながら膝まで浸かり目を凝らすと・・・縁の岩の隙間になんか緑のやつが見える。もうあれだと思うしかない。

もう一本のアックスで釣れないか頑張るが、どうにもうまくいかない。

こんなことで時間を消費するのも勿体ないので、普通に潜って素手で救出した。

今思えばカメラ回しておけば良かったんだけど、そんな余裕なかったわ。ピンチはチャンスか・・・次に活かそう。

マチャとは「釜ポチャしたら撤退」と約束してたんだけど、ここまで来たらそんなわけにもいかないだろ。

船小屋窪沢大滝と対面。さあクソ寒いけど、登るか。

船小屋窪沢大滝~その先へ

1P ゴリ

どこでも登れそうだが、プロテクションを考えると選べるラインは多くはない。

それでも快適にロープを伸ばし、テラスでピッチを切る。ただただ寒い。

2P マチャ

こちらも快適にロープを伸ばし落ち口へ。

さて、見てみたかったのはこの先だ。

{未知の領域へ}

過去に高巻いた人間がいたのかは知らないが、船小屋窪沢は大滝から先の情報は無い。

落ち口から10分くらい詰め上げると、少し広い場所に出た。

和名倉沢では珍しく陽が当たり、フィナーレ感がある。素晴らしい。

地図ではこの先も稜線まではまだ距離があり多くのロマンを感じさせるが、それはまた別の機会にしよう。

この沢で予定していた今シーズンの活動はここまで。

{記念撮影}

懸垂2回で和名倉沢に降り、来た道を戻る。

見事に明るいうちに脱渓完。ヘッドライト下山撲滅完了!

夜はカレーと大量のナンで疲れと寒さを癒したのであった。