前日は雨で、今日は気温も低くない。
ゲストのbochanとZakiと中津川に向かうが、あまり期待は出来ない。
信濃沢ゲート手前で土砂崩れが発生していた。
やはりここは安全ではない。
奈落に到着したのは9時頃。
上部に回り込み、降下しながら氷の状態を確認する。うーん・・・。
このエリアは午前中は日が当たるので、トライをするのは昼過ぎがベスト。
トップロープを張り、まずは二人に楽しんでもらう。
二人の奮闘が終わった後でいざトライ。
氷までのムーブは問題ない。岩も安定している。
氷への乗り移りは少し慎重になるが、氷に移ってからは傾斜を感じながらレストをし、トラバースしていく。ここのムーブは実に気持ちがいい。
このラインは氷の抜け口が核心だ。詳細なムーブはあえて書かないが、氷の張り付いたフィストより少し広いワイドクラックをどうにか越える。傾斜は無いが少しも油断できない。身体中の力で抑え込む。
終了点にクリップした後はマントルを返し、奈落を見下ろす。
マントル返しは北海道・神居古潭の流儀ではあり、完登をより噛み締めることが出来る。
ローワーダウンで降ろしてもらうとふいに喜びが込み上げてきた。
それは完登だとか初登だとかそんなことではなく、「秩父」というアイスクライミングとはかけ離れて思える環境の地にミックスクライミングが成立したこと、これからの可能性を切り拓くことが出来たこと、その事実と、このシーズンの多くの冒険に想いを馳せての感動であった。
秩父初となるこのミックスルートの名は「業(カルマ)」とした。
グレードはカンナカムイ(神居古潭)M9-や神楽(二口)M9よりは辛いと感じるが、単純な傾斜の強さや身体的なストレス以上の「難しさ」を感じたので、M9~M9+とした。
全てのアイス・ミックスルートに言えることだが、その年の氷の出来や環境等によってグレードは変化するものであるので、グレードはあくまで目安にするもので誇示するものでは決してない。
業(カルマ)もグレードなんて正直どうでもよく、グレードを付けることに意味や価値を感じないというのが正直な気持ちだ。
完登後はこのラインとは別に目をつけていたもう一本のラインにボルトを打ち始めた。
氷柱はまだ生き残っている。
俺たちの冬はまだ終わらない。