氷谷を駆け抜けろ
1/9に氷谷・山葵滝を登った時、眼前に延々と続く氷の回廊に目と心を奪われた俺は、下降支点にアックスを残置した。
「ここには何かがあるはずだ。でも何も無くてもいい。」
そう考えた俺とマチャは時間の許す限り氷谷を突き進むことを考えた。
作戦名は「ランナウェイ」
ここに執着があったわけではないが、この年は1月後半に暖気が入り、各地の状況を見るに大滝系は全滅したと判断したため、比較的持ち直し易いと思われるここが唯一の選択肢となった。
いざ氷谷上流へ(~F3)
夜明けと共に出発、相変わらずの悪路を歩き、3時間程度で山葵滝(F1)の基部へ到着。
(氷谷出合いには二段瀑があり、谷としては山葵滝がF3となるが、氷結が悪く登攀対象とはならないことと、山葵滝までは距離が空き過ぎるため、山葵滝をF1としている。)
装備を整えて前回既に登攀済みの山葵滝を右から高巻くが、普通に死にそうになる。
山葵滝を高巻くとまず待ち構えているのはⅢ級30m程度の滑滝(F2)。
F2を登り終えると、二俣になっており、F2取り付きからなんとなく見えていた上部の氷は右俣であることがわかる。
20m,Ⅴ級程度(F3)だが、氷の状態は良くは無く、見た目以上に難しそうだ。
そしてここまで来るとF3の先にもまずまずデカいのがあることがわかる。
本流は左俣だが、どう見ても見栄えの良い右俣に標的を変更する。
ここまででもしっかりアイスクライミングが楽しめる。
いつまで続くのか、氷谷上流(~F5)
F3を登り終えるとすぐ目の前に20m,Ⅴ級程度(F4)が現れる。F3と異なり、しっかり氷結している。
F4の落ち口付近まで来ると、今までのものよりちょっと大きい氷瀑が姿を見せた。
25m,Ⅴ+くらい?(F5)
これまた登り応えがある。
おいこれ終わんねぇぞ。
F5の先は滑滝を挟んで右に曲がっており、先が見えないが、どうやら稜線も近そうだ。
いい加減飽きてきた俺を尻目にマチャが先を見に行き無線を飛ばす。
「源頭です」
ああやっと終わった。
エピローグ(下山核心)
帰りは同ルート下降だが立木がうまいところに無く、すごい時間が掛かる。
そうこうしているうちにラスト、山葵滝の上部にセットしたロープが引き抜けなくなり、結局パスしたはずのF1も登るはめになった。
魚もおらず、ロクな遡行図もないこの沢に通う程来たのはきっと俺らが初めてで、なんなら支流を上まで登ったのは人類初と言っても過言ではなく(知らんけど)、そんな俺たちを愛しく思った氷谷の神が、そうそう簡単には帰したくなかったんだろう。
そんな氷谷の神に想いを馳せ、頑張って来た道を戻り、車に戻ったのが20時頃。
自分としては退院後初めてとなる14時間行動で、その後の美味しい中華もあまり喉を通らず、タフな山行となった。
次回、氷谷に来るとしたら、本流の完全遡行と稜線からの直接下山をしてみたいと思う。
でもしばらく氷谷の神には会いたくねぇなぁ…。
つづく?